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シネマ・エンター 忘れないよ名作映画 第12回 「博士の異常な愛情」③

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この作品の作られた背景には、米ソ冷戦が続く中で起きたキューバ危機があります。

キューバ危機とは1962年10月から11月にかけて、ソ連キューバに核ミサイル基地を建設していることが発覚して、アメリカがカリブ海キューバ海上封鎖を実施し、米ソ間の緊張が一気に高まって核戦争寸前まで達したのです。

 

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ここで描かれる政府や軍の関係者などは異常な人物ばかりです。

この事件の発端となる、空軍基地の司令官リッパー准将は精神異常となりますが、異常なのは彼だけではありません。

 

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国家の最高機密であるペンタゴンの作戦会議室にソ連の大使を呼んだり、それを問題視するわりには、ドイツ出身でヒットラーに忠誠を誓っていたような博士を核戦略の顧問としてメンバーに入れています。

 

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作戦会議に呼ばれたタージドソン将軍なんて、ソ連への爆撃を止める事が出来ないと分かると、もうこのさい先制攻撃してしまおうと提案し始めます。

このようにほぼ全ての人物が異常であり、冒頭のリッパー准将が異常化するのをキッカケに、次々と異常さを曝け出す事態へと発展していくのです。

 

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作品の冒頭に「映画はフィクションであり、現実には起こりえない」

と前置きされますが、日本人から見てありえない話しではありません。アメリカはソ連が日本に侵攻した場合に、日本が降伏する事を分かっていながら、ソ連よって戦争が終わってしまう前に広島や長崎に原爆を投下しアメリカの強さを世界に知らしめたのです。

これだけでも国際法に違反する酷い事実ですが、広島と長崎で違うタイプの原爆を使用して実験を行なっているのです。

広島に投下された「リトルボーイ」は高濃縮ウランを用いたガンバレル型の原子爆弾で、長崎に投下されたのは「ファットマン」と呼ばれるプルトニウムを用いたインプロージョン方式の原子爆弾なのです。

 

実際にはこの映画のような狂人ばかりではなく、アメリカ側も民間人を犠牲にするような原爆投下は辞めるべきという声が多数でしたが、たった一人ジェームズ・バーンズ国務長官の「戦争終了後の覇権を取るには原爆は投下すべき」という意見を聞いて、トルーマン大統領は原爆投下を決定しています。

 

作品の後半、コング少佐(T・J・〝キング“・コング少佐)が故障で爆弾を投下するハッチが開かずに、爆弾にまたがった状態で修理を行うと、そのままハッチが開きコング少佐は爆弾と共に落下して行くシーンがありますが、この場面がまさしくこの映画一番の本質的なところではないでしょうか?

 

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世界を制覇したかのように取り憑かれ、帽子を振りながらロデオの気分で爆弾にまたがって落下していく‥それはまるで猿(キングコング)が、人間の文明を制覇したかのように、20世紀の象徴であるエンパイアステートビルに登っている姿と重ね合うように思います。

 

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キューブリック監督がこの作品をコメディに仕上げた事で、人間の恐ろしさや愚かさが強烈に浮き彫りになっていると思います。

 

是非ご覧になってみて下さい。